2013年6月29日土曜日

阿川佐和子「阿川佐和子のこの人に会いたい8」,文春文庫

言わずと知れた,週刊文春の対談の一部である.2009年~2010年の19本+藤田まことが登場した回の収録である.
長嶋茂雄,綾小路きみまろ,白鵬翔,福田衣里子,野口聡一,大橋のぞみ,さだまさし,由美かおる,西田敏行,タモリ等々であり,最後に,お父様の阿川弘之もある.
どんな人との対談も見事にこなしている.さすがである.タモリは少々苦手のようだったが,もともと面白い綾小路きみまろとか西田敏行などは,ものすごく盛り上がった様子が伝わってくる.2時間の対談,受ける方も力量が問われるのだと思った.

2013年6月27日木曜日

阿川佐和子「サワコの和」,幻冬舎文庫

「聞く力」は大ヒットし,私も大ヒットを知らずにこの新書は読んでいた.しかし,今回初めてこの方の文庫本を読んでみた.
随筆であって,基本的に新書と大きな違いはないが,日頃の彼女の人への接し方や生き方など,ごく自然に伝わってくる.とても上品.かつ,何事にも勇気を持って果敢に挑む姿も見える.安心してこの人の本は読める.ほぼ同年代の人間としての共感も大きい.
とても男尊女卑の厳しいご家庭に育ったということで,未だ独身にもかかわらず,男の気持ちや男とのつきあい方も憎いばかりによくわかっておられる.とても賢い女性という感じがする.人生一度でいいから会って話をしてみたい人である.むりだよなあー

2013年6月25日火曜日

谷本真由美「キャリアポルノは人生の無駄だ」,朝日新聞出版

キャリアポルノとは,この人の考えた言葉で,いわゆる「自己啓発書」のことである.自己啓発書が悪いものだとは普通あまり考えないだろう.特に,積極的にそういうものを読む人もあるに違いない.しかし,それはポルノと同じで,意味がないというのだ.
こういう本は,一度読んで終わりではなく,同類の本を次々に読む.何度も自己啓発するということは,本当に自己啓発になっていない証拠だという.非常に手厳しい.
人脈を広げるといった行動も同等の行動だそうだ.確かに,言われてみたらそうだと思う.私も,そういうキャッチフレーズに弱い方かもしれない(典型的に弱いわけではない).私の書架にも,そういう本が散見される.「スタンフォードの自分を変える教室」なんて本が,読まずに積んである.

この人の思想の根本は,ヨーロッパ人の人生観があると思う. この人はイタリアでそれを身につけた.私も25年ほど前にオーストリアにいたときにそういうヨーロッパ人の人生観に触れて非常に衝撃を受け,自分の人生観に大きな影響を受けた.だから,昔の自分を見るようで,とてもよくわかる.この本は,私を25年前に引き戻してくれる.

2013年6月21日金曜日

百田尚樹「永遠の0」、講談社文庫

百田尚樹氏の処女作である。永遠の0のゼロはゼロ戦のことである。
物語は現在から始まる。姉弟が、自分たちの祖父のことを調べたいという興味から、話は始まる。
祖父といっても、自分たちが最近までおじいちゃんと思っていた人ではなく、本当は実の祖父がい
て、その人のことを調べたいと姉、いや、母が言い出したのである。
その人、宮部久蔵のことを知っている人を調べていくと、戦争の際の知人だった人が何人かあるこ
とがわかった。それらの人に順に面会して話を聞いていくうちに、宮部の人物像が明らかになって
いくという構成である。
この話は、宮部久蔵の人柄に心から感動させられる物語である。職業軍人にあるまじき(というの
が常識だった当時の雰囲気の中で)、自分の命を最優先するという設定である。そして、この人は
まれにみる非常に優れたパイロットである。
自分の命を大切にする。それは自分の家族のためである。それを終始貫くことは、彼の立場上非常な困難だったにも関わらず、それを貫き通す。しかし、最期は、特攻して死んでしまう。それはな
ぜか?
次から次へと読者の興味を新たに喚起しながら話が実話のごとく進んでいく。戦況などは実話であ
ろう。これによって、太平洋戦争のことを少し知ることができる。そして、それ以上に、物語とし
て楽しむことができる。
12月には映画が公開されるという。本を読んだ後に映画を見ると、印象が変わってしまうことがあ
るが、この話であれば、やはり、私の想像力を超えた世界である、戦争のさまざまな場面は映画に
よって見せてもらうほうが、よりリアルにイメージできると思う。だから、見ることにする。

この本の最後には、児玉清氏の13ページにおよぶ解説がついており、これがきわめてすばらしい。
てっとり早くストーリーを知りたければ解説から読むとよい。

2013年6月15日土曜日

百田尚樹「海賊と呼ばれた男(下)」,講談社

イランの石油の買い付け権利で,国岡商店がすごい冒険をし,実現したことをこの本で知った.何かをやるには,当然のごとく,危険をいろいろと冒すことが必要だが,それをあらためて感じさせてくれた.今の教育に足りないものは,こういうことを教えることではないだろうか.
国岡は,初婚のユキとは別れている.それは,子ができなかったので,ユキから離婚を願い出たものだが,国岡はユキがずっと自分のことを慕い続けていたことを知って,涙する.自分はユキと共に生きるべきではなかったのかと自問自答する.この辺は,読んでいて私も涙が出そうな思いだった.
下手な感想を書くのは,この本に対して失礼である.国岡鐵造に心から惚れると共に,1人の男をこのように書き上げるすばらしい力量に感嘆する.

2013年6月14日金曜日

百田尚樹「海賊と呼ばれた男(上)」,講談社

国岡鐵造は出光佐三のことらしい.フィクションなのか,ノンフィクションなのかはっきりしないが,ノンフィクションらしく書かれている.私は,これをノンフィクションだと思って上巻を読んだ.
実在人物にこれだけ大物がいるのかどうかわからないが,読者は国岡の大物ぶりに惚れるだろう.日本人のプライドをよみがえらせてくれるような本である.また,国岡をサポートする人もすばらしい.
下巻を読むのも楽しみだ.

2013年6月13日木曜日

曾野綾子「生きる姿勢」,河出書房新社

いつもながら,なかなか厳しい持論をお持ちである.
足から伝わる温度や感触もなく,背骨に堪える重力的な苦痛もないと,小説の題材は,どうしても抽象的,かつ異次元の体験だというものに傾きがちになる.・・・(p.208)
これは,研究についても言える.だから,私は,実際的なものを研究している.そのことを誇りに思っている.
自分で食べ物を得て,調理すること.水を確保すること.暑さ寒さを防ぐこと.敵から自分の身を守ること.食うために稼ぐこと.子供を育てること.それらの力を,自力で基本的な部分だけ確保することが必要だと思わない人が増えたのである.
全く同感.ただ,自分自身,出来ていないこともあるが,それは自分自身,良しとしていない.上記のようなことを人に頼るのが当たり前で,それをしてもらわなかったら不平不満を言う人は私の信条に反する.

2013年6月2日日曜日

西成活裕「シゴトの渋滞学」、新潮文庫

以前、「渋滞学」というこの方の本を買っていた(言葉通り、買っていた。まだ読んでいない)ので、興味を持ってこの本を買ってみた。
この文庫本は、渋滞学そのものの話というよりは、ご自分が渋滞学という新しい学問を興し、成功した成功体験が書かれている本である。流体力学、プラズマ、非線形をミックスしたという。渋滞という言葉から、それはよい3分野であり、渋滞学というのがかなり巧みに考えられた分野であると思われる。
大いに啓蒙され、また、渋滞学を勉強してみようという動機付けにはなった。ただ、渋滞という、非常に一般的な分野に、流体、プラズマ、非線形という、専門性の高い分野の勉強が必要ということになると、普及は困難であろう。どのような学問なのか、一度「渋滞学」を読んでみようと思う。