2013年8月31日土曜日

瀬戸内寂聴,ドナルド・キーン「日本を,信じる」中央公論新社

日本を信じるとは,東日本大震災からの立ち直りを信じると言う意味だ.キーン氏は,東日本大震災後,日本と寄り添って人生を全うすることを決めた人である.2人ともこの本出版時に90歳である.当然,死後の世界の話などもたくさん出てくる.ただ,2人とも日本を愛してやまない人であるが,今の日本のあり方には疑問を持っており,危機感もお持ちである.
この2人が,日本の立ち直りを信じると言えば,我々も安心感を持つことができる.しかし,2人も,そう信じるしかないでしょう,というスタンスのようである.
日本のよさとは何だったのか,こうした人々から学びながら,これから生きていく人がそれを維持して行かなければならないのだ.大丈夫か,若い人たちよ.

2013年8月14日水曜日

林原靖「破綻 バイオ企業・林原の真実」、WAC

あのビッグ倒産、林原の専務直筆の破綻のストーリーがとても生々しく描かれている。果たしてこの破綻は何だったのか?いままで何も知らなかったことが恥ずかしい。林原は、つぶれるべくしてつぶれたのではない。つぶされたのであった。
銀行とは?弁護士とは?何気なく我々が持っているイメージとはかけ離れたものであることをこの本は教えてくれる。マスコミが思考停止しているという指摘も、納得のいくものであった。

思考停止している人間たちと関わりを持って生きたくはない。しかし、関わりを避けるべく、何もしないという人生を歩みたくもないし(これは、著者がそう言っているのではない。私がそう思ったのである)、それは、思考停止している人間に負けるということだろう。

2013年8月8日木曜日

斎藤明美「最後の日本人」新潮文庫

タイトルを見ると、いったい何が書かれているのかと思うだろう。「日本人」とは、忍耐、努力、信念、謙譲、潔さ、・・・を美徳とする、昔からのイメージの日本人のことをいう。
著者は、「日本人」が日本から消えゆく状況にあると思っている。この本では、25名の「日本人」が、著者のインタビューに基づいて描かれている。その中には、著者が養子になった、高峰秀子とその夫松山善三氏が含まれている。その他は、吉行あぐり、双葉十三郎、緒形拳、石井好子、永六輔、山田太一、中村小山三、安野光雅、戸田奈津子、水木しげる、伊東四朗、澤地久枝、山田洋次、佐藤忠男、森英惠、岩谷時子、サトウサンンペイ、出久根達郎、鈴木史朗、野村万作、天野祐吉、佐藤忠良、松山善三、王貞治という面々である。
 どちらかというと、表に自らを出さず、黙々と信じるところを生きてきた人が描かれている。鈴木史朗、佐藤忠男などがその最たるところであろう。

私は、昭和31年、日本という国に生まれた偶然を、感謝している。まだ貧しさの残る時代だったが、少なくとも今よりは、正しいことが正しいとされ、悪しきことが悪しきこととしてみなされ、努力することを誰もが美しいと信じていた時代に子供時代を送れたことを、幸せと思っている。

これは、王貞治のところに書かれている、著者の心情の発露である。私も著者と同じ昭和31年生まれである。人の心は育った時代が大きく左右するものだと思う。そういう意味では、ほしいものが何でもあるが将来の展望がない今の時代に育った人は本当に気の毒だと思う。こう思うのは、「今より将来はよくなる」と信じることができた我々世代の人間だからであろう。