2012年11月18日日曜日

タカハシマコト「その日本語、お粗末ですよ!」、宝島新書

コピーライターである著者は、人一倍言葉に敏感なのに違いない。「貧しすぎる日常会話」として挙げられているものをいくつか示すと、ウィン・ウィン、上から目線、勝ち組・負け組、自分にごほうび、草食系、見える化、バイト敬語など、消化できていない、出来損ないの言葉や日本語としておかしいものなど、私も抵抗がある言葉に対しては、気持ちがすっとする快感を覚える。

一方、 次のような言葉が「お粗末すぎる日本語」として挙げられている。遺憾、維新、失われた○年、オンリーワン、自分探しなど。こちらは、何となく違和感を感じていても、これらの勢いのある言葉に異を唱えるのは難しく、こういう本を読むと、やはりそうだったんだ、と意を強くする(人の書いていることを頼りにしないといけないとはなさけないなあ)。
自分がかけがえのない存在だと思っているのは、あなただけ、つまり、世界でオンリーワンかもしれない。(p.108)
どこにもいる「あなただけ」に、かけがえのない価値はない、ということ。厳しいけど、これはわきまえる必要のある言葉と思う。 もちろん、1人1人の人格を否定しているわけではない。そこの論点の違いをきちんと見極めれば、この言葉を誤解することもないだろう。

おかしな言葉で人の注意を引くということに警鐘を鳴らしている本であると思う。この人の作ったコピーを見てみると、確かに、妙な言葉は一つもない。これは、大いに学ぶべき事と思った。

2012年11月4日日曜日

林望「メイフェア劇場の亡霊」、NHK出版

これは著者のオリジナルな著作であるが、まるでイギリスの短編集のような感じで書かれている。後書きにあるように、誰しも、イギリスにある短編を和訳したものかと思ってしまう。
イギリスの文化(と食事。こちらが重要)を深く知る著者ならではのお話である。お若い頃、たくさん書かれていた随筆を思い出す。こういう人をイギリス通というのだろう。
随筆も面白いが、フィクションも面白い。昔読んだ、「マーシャに」(集英社文庫)は忘れられない。

2012年11月3日土曜日

今野浩「ヒラノ教授の事件ファイル」新潮社

この教授がいままで奉職した大学の様々な問題点を、架空のヒラノ教授が見聞きするような書き方であるが、もちろん、ヒラノ教授とは今野教授のことであろう。
様々な制約のもとで、繰り広げられる「犯罪的行為」を、現役から退職した立場で明らかにしていく様子は、圧巻でもある。

孫崎享「日本の国境問題」、ちくま新書

この種の話の本を読むときには、著者がどういう人かということが何よりポイントであろう。この孫崎氏は、多くの国の大使を歴任後、防衛大学校教授を経て、退官されている。「現場」を経験している人なので、ある意味、安心して読むことができた(それ以上、この人のことについては、私は知らない)。
この人の話を読むと、国際関係では、明文化されていない、今までの経緯がいろいろあって、それを踏まえてバランスが取れていることがわかる。そこを知らずに政治をすると、とんでもない損をしたり、相手を怒らせたりすることがあるということらしい。そういう意味では、現政権が、どうも過去の経緯をあまり踏まえていないような印象がある。
決して相手の味方ではないが、こういう問題における立ち位置をどのように置く必要があるのか、日本は今後どうなるのか、ということについて現在のままではまずいという警鐘を鳴らしている本であると思う。