2013年9月30日月曜日

遠藤周作「老いてこそ遊べ」、河出書房新社

狐狸庵こと、遠藤周作氏、子供の頃よく読んだが、この本が生誕記念90年で、あちこちに書かれたエッセイを集めたものとして出版されたので、買ってみた。
まず驚いたのが、五十代や六十ちょっとの頃書かれたもので、自分を老人と呼んでいる。あの頃はそうだったのか、それとも、遠藤氏が特別だったのか。ちょっと区別がつかないが、彼は病気がちだったので、早く老人になったのかもしれない。しかし、粘ってみたところで、どうせ六十代半ばになれば、老人と言わざるを得ないだろう。まだ自分は老人ではないと、必死に抵抗している自分を感じた。
まあ、私もそれは自覚している。だからこそ、こんなタイトルの本を買っているのである。無理をせず、老人になったことを受け入れて、楽しくすごそうとした遠藤氏の気持ちがとても伝わってくる本である。これを読むと、老人になったら、趣味を1つではなく、あれもこれも持った方がいいという主張がわかる。
一番面白く読めたのは、「老年の心境」という10ページ強あるやや長目のお話。雑種の犬に人間を投影して、気持ちを書いている。犬がウンコをするところを、人に見られているときの犬の気持ちを細かく書いているところが笑えてしまう。なるほど、そう考えてウンコをしているのか。言われてみたらそういう顔をしているなあ。遠藤氏の庶民性が感じられ、心が温まる本であった。

2013年9月29日日曜日

白洲正子「たしなみについて」、河出書房新社

著者は白洲次郎の妻で、1998年に亡くなられている。この本は、1948年に刊行された単行本が、今年8月に新書版で発刊されたものである。
何分、終戦直後に書かれたもので、今だったら文字にすることを躊躇するような差別的な用語も含まれているが、そういうものも含めて、極めてストレートに書かれていて、大変わかりやすい。美とは何か、人生とは何か、そういった大きな命題に対する著者の気持ちが非常にわかりやすく書かれている。私は非常に共感を持ってこの本を読むことができた。
つべこべ言わずに、正しいことは何かということがストレートに書かれている。昨今は、日本語の単語が、差別用語などとして使えないものが非常に多くなっており、(そのことの是非は議論があるものの)文化が衰退しつつあることは否めない。文化の高さを感じた。なお、この著者はマッカーサーを困らせたというくらいだから、相当な人である。
本当の日本人とはどんなものなのか、わかったような気がした。明治の人の話を読むと、それを感じることが多い。自分が幼少の頃、親の実家に行ったりしたときに、明治生まれの祖父母がいたり、茅葺きの家だったりしたので、私はその辺の空気が体感的に理解できるおそらく最も若いグループに属するのではないかと思う。
この本は繰り返し読んで座右の銘にしたい本である。

2013年9月11日水曜日

鎌田浩毅「京大教授の伝える技術」、PHP新書

人にうまく話を通すには、価値観を合わせることが必要だというのが、この本の最初に書かれている。自分の価値観でものを考えるのではない。また、理論的にこれでいいはずだというようにも考えない。相手がどのように考えるのかということを考えて話をすると通じるということらしい。
京大教授の地震学者という堅い肩書きとは無縁な、とても柔らかい印象の本である。序章から、「生き方の旗印」には四つあって、「安楽志向型」、「王様型」、「気配り型」、「主導権型」というのが出てくる。こういう形が出てくれば、自分がどの型なのか、自然に考えるだろう。
対人関係をよくするためのノウハウがとても詳しく書かれている。受講生が山ほど押し掛ける人気教授になったらしい。それは、この本のカバーにもつけられている、ご本人の写真を見ると、納得がいく。真っ赤なシャツにジーンズの上着、ものすごく派手なネクタイ。こういう形を自ら見つけたというところがこの著者の立派なところだろう。