2016年8月9日火曜日

ジョン・マルコフ著、瀧口範子訳「人工知能は敵か味方か」、日経BP社

 著者は、社会学を専攻したニューヨークタイムズ科学部門の記者である。著者も訳者もシリコンバレーに本拠地を置く。気楽な気持ちで本書を購入し、読み始めたが、その分量といい、内容といい、気楽な気持ちのままで読破するには荷が重すぎた。なにしろ、新書よりも少し大きい四六判だ
が450ページある。よく欧米人が分厚い本を電車やカフェで読んでいるが、あのイメージである。

目次は、次のようになっている。

  1. 人間とマシンの間、
  2. 砂漠を駆け抜ける-自動運転車の誕生と成長、
  3. 人類には不利な競争、
  4. AIの栄枯盛衰、そして復活、
  5. 倫理をめぐる研究者たちの闘争-NASAからスタンフォードまで、
  6. 有利なパーソナル・アシスタント、
  7. グーグルのロボット参入、
  8. ジョブズのワン・ラスト・シング(最後にもうひとつ)、
  9. 主人、奴隷、それともパートナー?
である。この本のタイトルは、最終章において問いかけられている。 

 最近、AIブームに乗り、人工知能やディープラーニングなどの本が多数出版されている。私も、あまりにチラシみたいな本と逆に数式ばかりの本を除き、見つけたら買うことにしている。それぞれ特徴があるが、本書は、記者の著者らしく、ほとんど内容的には自分が取材して情報を集めたものとなっており、とにかく詳しい。人工知能の授業でおそらく習っただろうと思われるダートマス会議のメンバーやそれぞれの主張、組織などが出てくるが、まるでそこの中を自分が見に行って確認したような感覚に捕らわれる。私個人的には、SLAMのスランとモンテマーロの話が面白かった。移動ロボットの世界では、知らない人がないと思われるこれらの人物の人となりや経歴など、なかなか知ることができないものだ。
 本書では、AIとIAが対比させてある。本書は、技術的な本ではなく、人工知能の歴史が、物語風に書かれたものである。人工知能について人に語ろうと思えば、この本の内容を理解していけば、かなりのところまで行ける。私自身、この本は何度も読み返して勉強したいと思ったし、来年度のパターン認識の授業に活かしたいと思った。   

川村元気著「理系に学ぶ」、ダイヤモンド社


 悪人、告白、寄生獣、進撃の巨人、モテキ、青天の霹靂、電車男などの映画プロデューサーであり、作家である典型的文系著者が、理系で今をときめく数々の著名人との対談をした内容が書かれている。

 対談相手は、養老孟司(解剖学者/作家/昆虫研究家)、川上量生(カドカワ代表取締役社長/ドワンゴ代表取締役会長)、佐藤雅彦(東京藝術大学大学院映像研究科教授)、宮本茂(任天堂専務取締役クリエイティブフェロー)、真鍋大度(メディアアーティスト)、松尾豊(東京大学大学院准教授人工知能研究者)、出雲充(ユーグレナ代表取締役社長)、天野篤(順天堂大学心臓血管外科教授)、高橋智隆(ロボットクリエイター)、西内啓(統計家)、舛田淳(LINE取締役CSMO)、中村勇吾(インターフェースデザイナー)、若田光一(JAXA宇宙飛行士)、村山斉(理論物理学者)、伊藤穣一(マサチューセッツ工科大学メディアラボ所長)である。

 これら、全く違う分野ではあるが、すべて理系の人との対談を読み進めてみると、自分がやったことが着実に積み上げられる理系の仕事というのが共通して垣間見える。それらは、ほぼ文系の人にはできないことばかり。

 養老孟司といえば、「バカの壁」を代表とする多くの大ヒットの書物の著者であり、ニコニコ動画を生み、カドカワの社長になった川上氏、バザールでござーるなどの傑作CMを作り出した佐藤氏、スーパーマリオやゼルダの伝説などをゲームプロデューサー宮本氏、LINE取締役舛田氏、MITメディアラボ所長の伊藤氏など、この記事を読んでいる諸君の中も、ここに挙げた人の中に何人か聞いたことがあるだろうし、皆さんが漠然と目標としている人もあるかもしれない。

 理系で情報系の皆さん、是非、こういう本を読んでほしい。理系で学んでいることがいかに可能性を秘めたことであるか、認識して自信を持ってほしい。ビルゲイツ、スティーブジョブズ、ラリーペイジ、皆理系人間である。そして、取り敢えず現状は無視して、思い切って自分の将来の夢をこういう人の話を参考にして描いてみてほしい。そのとき、君たちの将来像へ向かった歩みが始まる。