2015年11月22日日曜日

松田卓也著, 2045年問題 コンピュータが人類を超える日, 廣済堂新書

 著者は1943年生まれで、現在72歳くらいの宇宙物理学者であり、もともと情報の専門家というわけではない。しかし、コンピュータは長年駆使してきており、過去から現在(おそらく未来についても)、コンピュータについて非常に的確にポイントをとらえ、その上で2045年問題を論じている。
 

 全部で7章から成っている。「1章」コンピュータが人間を超える日、「2章」スーパー・コンピュータの実力、「3章」インターフェイスの最先端、「4章」人工知能開発の最前線、「5章」コンピュータと人類の未来、「6章」コンピュータが仕事を奪う、「人工知能開発の真意」となっている。

 1章は、クイズ問題を解くワトソンの実力ぶりからスタートし、「コンピュータの行く末を人間が予測できなくなる時点」を「技術的特異点」という科学的用語で定義している。これが2045年に訪れるというのが本書の主題である。この点を指摘している研究者カーツワイルの「収穫加速の原則」、つまり、ムーアの法則により技術的特異点が訪れるという説の紹介があるが、その前に、有名な映画である「2001年宇宙の旅」、「攻殻機動隊」、「ターミネータ」、「マトリックス」を具体的に取り上げ、未来の想像される世界を我々に提示している。著者はその中に描かれていることを否定することなく、そういう将来が来るのかなという余韻を持たせたまま、2章につなげている。

 この本の優れている点は、現代の若い世代にとっても非常に興味深い映画の話題から話を起こして、読者の興味を引きつけたまま、コンピュータの進化(2章)、人体とコンピュータとのインターフェイス(3章)、人工知能(4章)、技術的特異点後の世界(5章)、失業社会の到来(6章)というように、コンピュータと未来の姿を、科学的な知識を元にして議論の展開をしており、一般市民のみならず、情報の専門家にとっても、これを読むことによってホットな情報の世界を整理して理解することができるようになっている点であろう。5章では、人類の未来を4つのシナリオで描いている。1つめは人間がコンピュータによって支配されるというもの、2つめは巨大化したコンピュータの中に人間は肉体を失って入り込むというもの、3つめは著者が(そして、たいていの人が)理想と考える、人間は肉体が存続し、コンピュータが人間の知能を増強するというもの、4つめは何も起こらないというものである。我々は、コンピュータとの関わりを考えるときほぼ無条件に3つめを想像し、明るい未来を描くが、これを著者は「明るい寝たきり生活」と呼んでいる。私は、3つめと4つめの中間あたりが一番いいと感じるが、そこで果たして止まるのかどうか・・・。この本を読むと、そうでもないと思ってしまう。6章は、ローマクラブの「成長の限界」の話から始まり、人類の将来について、今まで人類が考えてきたものや著者の予測する未来の姿が描かれており、人工知能の開発が鍵を握るようでもあるが、著者も、コンピュータの世界から少し目を外に向けたときに、人類の未来を描くことは困難と感じているようにも思われる。

 以上のように、コンピュータを中心にした世界を考えるとき非常に示唆に富む本であり、現代に生きるものとして、一読をお勧めしたい。